キリストのヨルカに召された少年
フョードル・ドストエフスキー
神西清訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)晩《ばん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)心|細《ぼそ》く
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 それは、ロシアのある大きな町であったことだ。その晩《ばん》は、クリスマスの前夜《ぜんや》で、とりわけ、寒《さむ》さのきびしい晩だった。ある地下室《ちかしつ》に、ひとりの少年がいる。少年といっても、まだ六つになったかならないかの、とても小さな子なのだ。何か、寝巻《ねま》きのようなものを着《き》て、ぶるぶるふるえている。
 その地下室は、じめじめしてつめたい。宿《やど》なしや、貧乏人《びんぼうにん》の集まる場所《ばしょ》なのだ。少年のはく息《いき》が、まっ白な湯気《ゆげ》になって見える。少年は、すみっこの箱《はこ》に腰《こし》かけて、たいくつまぎれに、わざと口から白い湯気をはいておもしろがっているが、じつは、何か食べたくてしようがないのだ。
 少年は、朝からなんべんも、板《いた》でできた寝床《ねどこ》のほうへ行ってみた。そこには、まるでせんべいのようにうすい下じきを
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