ノ、握手のために手を差し出した。老人もたちまちそれと悟って、急に身を退いた。
「じゃ、御機嫌よう、御機嫌よう!」と彼は玄関口からくり返した。「いつかまたやって来るだろうな? 本当に来てくれよ、わしはいつでも歓迎するよ、じゃ、達者で行くがいい!」
イワン・フョードロヴィッチは旅行馬車の中へ乗りこんだ。
「あばよ、イワンや、あんまり悪うは言わんでくれよ!」父は最後にこう叫んだ。
家内の者は皆、スメルジャコフも、マルファもグリゴイリも見送りに出た。イワン・フョードロヴィッチはめいめいに十ルーブルずつやった。彼がすっかり馬車の中に落ち着いた時、スメルジャコフが膝かけの絨毯《じゅうたん》をなおしに駆け寄った。
「なあ、おい……チェルマーシニャへ行くんだよ……」と、いかにも唐突にイワン・フョードロヴィッチはこう口をすべらした。ちょうど昨日と同じように、ひとりでにことばが飛び出してしまったのである。おまけに神経的な微笑までついて出た。彼はその後長いあいだこのことを覚えていた。
「してみると、賢い人とはちょっと話してもおもしろいというのは本当のことでございますね」じっとしみ入るようにイワン・フョー
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