ュらいのことよりほかには、何一つ取り立てて理由らしいものを示すことはできなかったであろう。いま一方から見ると、彼はこの夜、一種説明しがたい、いまいましい臆病な気持に魂をつかまれて、そのために今急に肉体的な力まで喪失したような感じがした。そして頭が痛み、眩暈《めまい》がする。なんだかまるで誰かに復讐《ふくしゅう》をしようとでも思っているように、憎々しい毒念が彼の胸を刺《さ》すのであった。彼は、先刻の会話を思い出すと、アリョーシャさえも憎らしかった。ときには自分自身までが憎くてたまらなかった。カテリーナ・イワーノヴナのことはほとんど考えようともしなかった。彼はけさ彼女に向かって『明朝モスクワへ立ちます』と立派に広言した時でさえ、肚の中では『なあに、でたらめだ、なんで行けるものか、おまえはいま空威張りをしているが、そうやすやすと別れることができるものか』と自分に自分でささやいたことを、はっきり覚えているので、このとき彼女のことを忘れてしまったのがなおさら奇怪に感じられた。彼は後になって、深くこのことに驚いたのである。だいぶたってから、この夜のことを思い出したとき、イワン・フョードロヴィッチの
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