Sに激しい嫌悪の念をよびさました事実が一つある。それはほかでもない、彼はときどきふいと長椅子を立っては、ちょうど自分の様子を透き見されるのが恐ろしく気になるように、そっと扉をあけて梯子段の上まで出て、下の方へじっと耳を傾けながら、フョードル・パーヴロヴィッチが下の部屋で身動きをしたり歩いたりする物音に、一心に聞き耳を立てるのであった、しかも一種奇怪な好奇心を覚えて、息を殺し、胸をおどらせながら、しばらくずつ、五分間ばかりずつ、じっと耳を澄ますのであったが、しかし、何のためにこんなことをするのか、何のために耳を澄ますのか、それはむろん、彼自身にもわからなかった。この※[#始め二重括弧、1−2−54]ふるまい※[#終り二重括弧、1−2−55]を彼はその後、生きている間じゅう、※[#始め二重括弧、1−2−54]卑劣な※[#終り二重括弧、1−2−55]行為と呼んでいた。深い深い魂の奥底で、自分の生涯じゅうの最も卑劣きわまる行為だと考えたのである。当のフョードル・パーヴロヴィッチに対しては、その瞬間、なんら憎悪などという感じをいだかなかったが、ただどういうわけか、ひどく好奇心を動かされたのである
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