ゥたものがあったら、彼が笑いだしたのはけっして愉快であったがためでないことを、確かめたに違いない。それに彼自身もこの瞬間にどんなことを心に思っていたのか、それは、とうてい説明することができなかったのであろう。彼はさながら痙攣にかかっているような身ぶりと足どりで歩いて行った。
七 『賢い人と話す興味』
物の言いぶりもやはり同じようであった。広間へはいるなり、フョードル・パーヴロヴィッチにぱったり出会うと、彼はいきなり手を振りながら父に向かって、『僕は二階の部屋へ帰るんで、お父さんの所へ行くのじゃありません、さようなら!』とわめきざま父にさえ顔をそむけるようにして、そばを通り過ぎてしまった。この刹那、老人はたまらなく憎らしかったということは、さもありそうなことであるが、これほど露骨な憎悪の表現は、フョードル・パーヴロヴィッチにとっても実に意外であった。実際、老人は至急、彼に話したいことがあって、わざわざ広間まで出迎えたところだったのである。それが、こういう愛嬌《あいきょう》を浴びせかけられたので、老人はあいた口もふさがらず、突っ立ったまま中二階をさして梯子段《はしごだん》を上っ
前へ
次へ
全844ページ中822ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング