セのまま耳門のほうへ踵《くびす》を転じた。
「僕は明日モスクワへ立つよ、もし望みなら話してやるが、明日の朝早く立つんだ……それだけだ!」と彼は憎々しげに、一語一語を分けるように、大きな声でこう言った。後になって彼は、どんな必要があってそんなことをスメルジャコフに言ったのか、われながら不審でならなかった。
「それが何よりでございますよ」こちらはそれを待ちかまえているように、こう相づちを打った、「ひょっとなんぞ変わったことがありました場合には、こちらから電報でお呼びするようなことがあるかもしれませんけれど」
 イワン・フョードロヴィッチはもう一度立ち止まって、またもやすばやくスメルジャコフのほうへ向きなおった。と、今度は相手のほうに何か同じような変化が生じた。あのなれなれしい投げやりな表情が一瞬にして消え失せて、その顔全体が極端な注意と期待を表わしていたが、しかし、それはもはや臆病で卑屈らしい表情であった。イワン・フョードロヴィッチをみつめている眼眸《まなざし》には、『もう何かおっしゃることはございませんか、もう何も言い残しなさったことはございませんか?』というような意味が読み取られた。

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