った。ところが、その出発の前、と言っても、その当日なんだが(おれは会いもしなければ、見送りにも行かなかった)、おれはささやかな封書を受け取ったんだ。青い透し入りの紙に鉛筆でたった一行『いずれお便りをします、お待ちくださいませ。K』とそれだけ書いてあったよ。
 これからはもっと簡単に説明しよう。モスクワへ行くと、あの人たちの事情は電光のような速度と、アラビヤンナイトのような思いがけなさでもって、がらりと一変してしまったのだ。あの女のおもな近親だった将軍夫人が不意に、最も近しい相続者に当たる二人の姪《めい》を、両方とも一時に亡くしてしまったのだ。――どちらも天然痘《てんねんとう》で同じ週に死んだのだ。すっかり取り乱してしまった夫人は、親身の娘のように、カーチャを喜び迎え、まるで救いの星でも見つけたように彼女に取りすがって、さっそくあの女の名義に遺言状を書き換えてしまったのだ。けれどそれはさきのためで、当座の手当てとしてじかに八万ルーブルわたして、さあこれはおまえの持参金だから、どうなりとも好きなようにお使いと言ったとさ。実際ヒステリイ性の婦人だったよ、おれはその後モスクワへ行って自分の眼で
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