かったのだ。ただ軍刀に接吻しただけで、また元の鞘《さや》に納めた。が、こんなことはおまえに話す必要はなかったんだ。それに今ああいう争闘の話をしながら、自分をいい子に見せようと思って、少しはごまかしもあるようだ。しかしそれはどうだってかまわない。ほんとに人間の心の間諜《かんちょう》なんてものが、みんなどこかへ消えてなくなりゃあいいんだ! さあ、これがおれとカテリーナ・イワーノヴナとのあいだにあった『事件』の全部なんだよ。今ではこれを知っているのはイワンと、それにおまえだけなんだ」
ドミトリイ・フョードロヴィッチは立ち上がると、興奮しながら一、二歩足を踏み出した。そしてハンカチを取り出して額の汗を拭《ぬぐ》った。それから再び腰をおろしたが、それは前に坐っていたところでなく、反対側の壁ぎわの床几《しょうぎ》であった。だからアリョーシャは、すっかり坐りなおして兄のほうを向かなければならなかった。
五 熱烈なる心の懺悔――『まっさかさま』
「ではこれで」とアリョーシャが言った。「僕もこの話の前半を知ったわけなんです」
「ね、前半だけはおまえにもわかったわけだ。それはただの戯曲《ドラマ
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