は当時それぞれ町を引きあげてしまっていた。しかしその風説はまがうかたなくフョードル・パーヴロヴィッチを目当てに流布されたもので、いまだにそう信じられているのである。むろん、当人はそのことをたいして弁解もしなかった。彼はそんじょそこらの商人や町人どもを相手に取ることを潔しとしなかった。当時の彼は鼻息が荒くて、自分が一生懸命お太鼓を持っている官吏や貴族の仲間とでなければ、口もきかないありさまであったからである。グリゴリイが全力をあげて主人のために敢然として立ったのは、このときである。彼はそうした誹謗《ひぼう》に対して主人を弁護したばかりか、主人のために喧嘩口論までして、多くの人の意見をくつがえした。『あの下種《げす》女の自業自得だ』と、彼は断固として言った。そして当の相手は『あのねじ釘のカルプ』(それは当時、町じゅう誰知らぬ者もない恐ろしいお尋ね者で、県の監獄を脱走して、この町に身を潜めていた男である)以外の誰でもないと突張ったものである。この推測はいかにもまことしやかに思われた。人々はこのカルプのことを覚えていた。ちょうどその秋の初めごろまさしくあの夜の前後に、彼が町を徘徊《はいかい》し
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