ォン・モールさん」
 イワン・フョードロヴィッチは小ばかにしたようにひょいと肩をすくめると、外方を向いて、街道を眺めにかかった。それからずっと、家へ帰るまでことばをかわさなかった。
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 第三篇 淫蕩《いんとう》な人たち


   一 従僕の部屋にて

 フョードル・パーヴロヴィッチ・カラマゾフの家は町の中心からかなり隔たってはいたが、そうかといって、まるっきり町はずれというわけでもなかった。それはきわめて古い家ではあったが、外観はなかなか気持がよかった。鼠色に塗りあげた、中二階つきの平家建てで、赤い鉄板の屋根がついていた。まだかなり長く保《も》ちそうで、手広く居心地よくできていた。いろんな物置きだの納戸だの、思いもかけない階段だのがたくさんあった。鼠もかなりいたが、フョードル・パーヴロヴィッチはたいしてそれには腹を立てなかった。『まあ何にしても、夜分ひとりのときさびしくなくっていいわい』実際、彼は夜分は召し使いを傍屋《はなれ》へ下げて、一晩じゅう母屋《おもや》にただひとり閉じこもるのが習慣であった。その傍屋《はなれ》は邸内に立っていて、広々とした頑丈な造りであったから、
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