母屋のほうにも台所はあったのだけれど、フョードル・パーヴロヴィッチはここで煮たきをさせることに決めていた。彼は台所の臭いが嫌いなので、夏も冬も食べ物は中庭を通って運ばせていた。だいたいこの家は大家族むきに建てられていたから、奥の者も召し使いも、今の五倍は優に容《い》れることができた。しかしこの物語の当時、この家にはフョードル・パーヴロヴィッチとイワン・パーヴロヴィッチ、それに傍屋《はなれ》の従僕部屋にわずか三人の召し使いが住んでいるにすぎなかった。その三人というのは、老僕グリゴリイ、その妻の老婆マルファ、それにスメルジャコフというまだ若い下男であった。さて、この三人の召し使いについては、も少し詳しく説明しなければならぬ。しかし、老僕グリゴリイ・ワシーリエヴィッチ・クツーゾフのことは、もうかなりに話してある。これは、もし何かの原因で(ときどきそれは恐ろしく非理論的なものであったが)、いったんそれを間違いのない真理だと思いこんだ暁には、しつこくその一点に向かって一直線に驀進《ばくしん》するといった頑固一点張りの人間であった。概して正直で清廉潔白な人物であった。妻のマルファ・イグナーチエヴナ
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