は子供に対する悪意によるものでもなければ、はずかしめられた良人としての感情によるのでもなかった。ただ単に子供のことを全く忘れ果てていたからであった。彼が会う人ごとに涙を流し、泣き言を並べてうるさい思いをさせたり、自分の家を乱行の巣窟《そうくつ》にしたりしているうちに、三つになるミーチャの世話を引き受けたのは、この家の忠僕グリゴリイであった。もしもそのころ、この男がめんどうを見てやらなかったなら、子供にシャツ一つ替えてやる者もなかったであろう。それに、子供の母方の縁者も、初めのうちこの子のことは忘れていたらしかった。祖父にあたるミウーソフ氏、つまりアデライーダ・イワーノヴナの現在の父は、もうそのころはあの世の人となって、その未亡人、すなわち、ミーチャの祖母も、モスクワへ移って、そこで重い病気にかかっており、姉妹《きょうだい》という姉妹はみんなよそへ嫁《とつ》いでしまっていたので、ミーチャはまる一年というもの、グリゴリイのもとで、下男小屋に暮らさなければならなかった。
それにしても、たとい父親がミーチャのことを思い出したとしても(事実、彼とても、この子の存在を知らずにいるわけにはいかなか
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