たくしは行ってまいりましたよ、行ってまいりましたよ、わたくしはもう行ってまいりましたんで……Un chevalier parfait !(立派な騎士です)」と地主は宙で指をぱちりと鳴らした。
「Chevalie って誰のことです?」
「長老のことですよ。すばらしい長老ですて。実にすばらしい……。この修道院のほまれですよ。ゾシマ長老。あのかたはまことに……」
 しかし、そのまとまりのないことばを、ちょうど一行に追いついた、一人の僧がさえぎった。それは頭巾をかぶった、背のあまり高くない、恐ろしく顔の青ざめて痩せさらばえた僧であった。フョードル・パーヴロヴィッチとミウーソフとは立ち止まった。僧はほどんど顔が帯にくっつくくらい丁寧な会釈をしてから、こう言った。
「皆様、庵室のほうの御用が済みましたら、修道院長が皆様にお食事を差し上げたいと申しておられます。時刻は正一時で、それより遅くなりませぬように。あなたもどうぞ」と彼はマクシーモフの方へふり返ってつけ加えた。
「それはぜひお受けいたしますよ!」と、フョードル・パーヴロヴィッチはその招待にひどく恐悦して叫んだ。「ぜひとも。それになんですよ、わたしたちはこちらにおる間じゅうは行儀に気をつける約束をしましたのじゃ……。ところで、ミウーソフさん、あなたもおいでになりますかな?」
「むろん、行かないでどうします。僕がここへ来ましたのは、つまり修道院の習慣をすっかり見せてもらうためなんですからね。ただ一つ困るのは、あなたと御いっしょに来たことでしてな、フョードル・パーヴロヴィッチ……」
「それに、ドミトリイがまだ来ませんしな」
「さようさ、あの男がずるけてくれたらありがたいんですがね。いったいあなたの家のごたごたが僕にとって、愉快だろうとでもいうんですか? おまけにあなたといっしょなんですからね。それじゃあ、お食事に参上しますから、修道院長によろしくお伝えください」と、彼は僧のほうへふり返って言った。
「いえ、わたくしはあなたがたを長老のところへ御案内しなくてはなりませんので」と僧が答えた。
「では、わたくしは修道院長のところへ……、わたくしはそのあいだに、じかに修道院長のところへまいりますわい」とマクシーモフがさえずり始めた。
「修道院長はただ今お忙しいのですけれど、でもあなたの御都合で……」と僧は渋りがちに言った。
「なんてうる
前へ 次へ
全422ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング