オかも、それが日を経るにつれて、いっそういちじるしくなるのであった。だが、彼は別に、無礼な態度をとるというわけではけっしてなく、いつも非常にうやうやしい口のきき方をしていたが、どういうものか、スメルジャコフは、自分とイワン・フョードロヴィッチとがある事情について、共同関係でも持っているように思いこんでいるらしかった。そして、いつか二人のあいだに取りかわした密約というようなものでもあって、自分たち二人だけにはわかっているけれど、まわりの人間どもにはとうていわかりっこないのだ、といった風な調子で、いつも話をするようになったのである。だが、イワン・フョードロヴィッチは、自分の心にしだいに募ってくる嫌悪の原因を長いあいだ悟ることができなかったが、このごろになってようやくその真相がわかって来たのである。嫌悪と腹立たしさにじりじりしながら、彼は今無言のまま、スメルジャコフのほうを見ないようにして、耳門をくぐり抜けようと思ったのだが、その瞬間に、スメルジャコフがつとベンチから立ち上がった。その身ぶりを見ただけで、イワン・フョードロヴィッチはたちどころに、彼が何か特別な相談を持ちかけようとしているんだな、と推察した。イワン・フョードロヴィッチはちらと相手を見て立ち止まった、そして自分がつい今のさきそう思ったように、さっさと通り過ぎてしまわないで、こうして立ち止まったことを考えると、彼は身内の震えるほど腹が立ってきた。憤怒と憎悪をもって、彼はスメルジャコフの去勢僧のように痩せこけた顔や、きれいに櫛《くし》で梳《と》き上げた両|鬢《びん》や、小さい冠毛のようにふくらました前髪をじっとにらんだ。こころもち細めた左の眼はちょうど、『いかがですな、通り過ぎておしまいなさらぬところを見れば、お互いに利口なわたくしどもの中には、何か御相談ごとがあるらしゅうござんすな』とでも言っているように、薄笑いを浮かべて、またたきをしていた。イワン・フョードロヴィッチは身震いをした。
『どいてろ、やくざ野郎、おれは貴様なんぞの仲間じゃないぞ、ばか野郎!』そうどなりつけてやりたいと思ったのだが、自分ながら意外なことには、まるきり別なことばが口をついて出てしまったのである。
「どうだい、お父さんはまだ寝てるかい、それとも、もう起きたかい?」と、自分でも思いがけないくらい静かに、すなおに彼はこう言った。そして、やは
前へ
次へ
全422ページ中399ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング