に独創的な人間だとさえ考えるようになった。この下男に、自分と話をするように仕向けたのは彼自身であったが、いつも相手の考えの妙に不条理なというよりは、妙に不安定な点に一驚を喫するのであった。そして何が、いったい『瞑想者《めいそうしゃ》』の心を、こんなに絶え間なくしつこく騒がせているのか、さっぱり合点がいかなかった。彼らは哲学的な問題も語り合ったし、また例の、太陽や月や星は、やっと四日目にしか創られなかったのに、どうして最初の日に光がさしていたのだろうか、この事実をどう解釈すべきだろうか、などという問題についても話し合ったものである。しかしイワン・フョードロヴィッチは間もなく、問題はけっして太陽や、月や、星でないことを悟った。なるほど、太陽や、月や、星は興味ある問題ではあるけれど、スメルジャコフにとっては全く第三義的のもので、彼は全然別なものを要求しているらしかった。そして、あれやこれやと、その時々によって同じ調子ではないけれど、とにかく、どんな場合でも底の知れぬ自尊心、それもはずかしめられたる自尊心が、まざまざと顔をのぞけ始めるのであった。イワン・フョードロヴィッチはそれがひどく気に食わなかった。そもそもこれから嫌悪の念がきざし始めたのである。その後、家庭内にごたごたが起こって、グルーシェンカが現われたり、兄ドミトリイの騒ぎがもちあがったりして、いろいろめんどうなことが続いた時、二人はそのことについても語り合った。もっとも、スメルジャコフはこの話をするときに、ひどく興奮した様子を見せたけれど、いったいそれが落着すればいいと自分で思っているのか、とうてい正確に突き止めることはできなかった。そればかりか、不用意のうちに現われる彼の希望の茫漠《ぼうばく》として支離滅裂なことにむしろ驚かされるくらいであった。彼はいつも、何かを聞き出そうとするもののように、前から考えているらしい遠まわしな質問を持ちかけるのであったが、それがなんのためかは説明はしなかった。そして非常に熱心に何かを尋ねている最中に、突然ぴったりと口をつぐんでしまって、まるで別なことへ話題を転ずることがあった。しかし、ついにイワン・フョードロヴィッチを極度にまでいらだたせて、その心に激しい嫌悪の情を起こさせたのは、最近スメルジャコフが彼に対してありありと示すようになった、一種特別な忌まわしいなれなれしさであった。
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