Aたたく、蹴《け》る、しまいには、いたいけな子供の体が一面、紫色になってしまった。しかるに、やがてそれにもいや気がさしてきて、もっとひどい技巧を弄《ろう》するようになった。というのは、実に寒々とした厳寒の季節に、その子を一晩じゅう便所の中へ閉じこめるのだ。それもただ、その子が夜なかに用便を教えなかったというだけの理由にすぎないのだ(いったい天使のような、無邪気にぐっすり寝入っている、五つやそこいらの子供が、そんなことを知らせる知恵があるとでも思っているのかしら)、そうして、もらしたきたない物をその子の顔に塗りつけたり、むりやり食べさせたりするのだ。しかも、これが現在の生みの母親のしわざなんだからね! この親は夜よなかにきたないところへ閉じこめられた哀れな子供のうめき声を聞きながらも、平気で寝ていられるというんだからな! おまえにわかるかい、まだ自分がどんな目に会わされているのかも理解することができない。小っちゃな子供が、暗い寒い便所の中でいたいけな拳《こぶし》を固めながら、痙攣《けいれん》に引きむしられたような胸をたたいたり、邪気のないすなおな涙を流しながら、『神ちゃま』に助けを祈ったりするんだよ――え、アリョーシャ、おまえはこの不合理な話が説明できるかい。僕の弟で、親友で、神聖な新発意《しんぼち》のおまえは、いったい何の必要があってこんな不合理が創られたものか、説明ができるかい! この不合理がなくては人間は地上に生きて行かれない、なぜなら、善悪を認識することができないから――などと、人はよく言うけれど、そんな代価を払ってまで、ろくでもない善悪を認識する必要がどこにあるんだ? 認識の世界全体をあげても、この子供が『神ちゃま』に流した涙だけの価もないではないか。僕は大人の苦悩のことは言わない。大人は禁断の木の実を食ったんだから、どうとも勝手にするがいい。みんな悪魔の餌食《えじき》になってしまったってかまいはしない、僕がいうのはただ子供だけのことだ、子供だけのことだ! おや、僕はおまえを苦しめてるようだね、アリョーシャ、なんだか人心地もなさそうじゃないか。もしなんなら、やめてもいいよ」
「大丈夫です、僕もやっぱり苦しみたいんですから」とアリョーシャはつぶやいた。
「もう一つ、ほんのもう一つだけ話さしてくれ。これも別に意昧はない、ただ好奇心のためなんだ。非常に特殊な話なん
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