からまた、二人で散歩に出たときのことですが、イリューシャがこんなことを聞くじゃありませんか。『父ちゃん、金持ちが世界じゅうで誰よりも強い?』って。『そうだよ、イリューシャ、金持ちより強いものは世界じゅうにないんだ』と、わたしが言いますと、『父ちゃん、僕うんと金持ちになるよ。僕は軍人になって、みんな負かしてやるんだ。そうすると、皇帝陛下が僕に御褒美をくださるから、そうしたらここへ帰って来るんだ。そしたら、誰だって僕に手出しなんかできるものか……』それからしばらく黙っていましたが、『父ちゃん』とまた言いだしました。――唇はやはり前のように震えてるじゃありませんか、『ここの町は本当にいやな所だねえ、父ちゃん!』『そうだ、イリューシャ、この町はどうもあまり感心しないよ』『父ちゃん、ほかの町へ、ほかの、いい町へ引っ越しましょうよ。僕らのことを誰も知らない町へ引っ越しましょう』『うん、越そう! そうしよう。イリューシャ、ただお金を少しためりゃいいんだから』と言って、わたくしは、あの子の悲しい思いをまぎらすおりがきたのを喜んで、どんな風にして他の町へ行こうかだの、馬と馬車をどうして買おうかだの、いろんな空想を始めました。『母ちゃんと姉ちゃんは馬車へ乗せて、上からおおいをしてやろう。そしておまえとお父さんはそのそばを歩いて行こうよ。ときどき、おまえだけは乗せてやるが、父ちゃんはやはりそばについて歩いて行こう。だって、うちの馬だから世話をしてやらにゃならんから、みんなで乗るわけにはいかないんだよ。そんな風にして行くことにしようね』こう言いますと、あの子は夢中になって喜びました。何よりも自分の家に馬があって、自分がそれに乗って行くというのが嬉しいんですね。御承知のとおり、ロシアの子供というものは馬といっしょに生まれるようなものでございますからね。まあ、こんなことを、長いこと、おしゃべりしました。いいあんばいに、あれの気をまぎらわして、慰めてやったと思って安心しました。これは一昨日の夕方のことでしたが、昨日の晩になると、様子ががらりと変わってしまいました。朝、あれはまた例の学校へ出かけましたが、帰って来た時には沈んだ顔つきをしておりました。ひどく沈みこんでおりましたので、夕方、わたしはあの子の手を取って、散歩に出かけましたが、黙りこんでいて、口をきかんのです。風がそよそよと吹いて来て、夕
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