ざいますよ。あなた、どうかわたくしをばかにしないでくださいまし、ロシアで、われわれ仲間では酒飲みがいちばん善人ということになっていましてね、またいちばん人のいい連中がまたいちばんの酒飲みなんでございますよ。それで、横になっていましたんで、イリューシャのことはその日はそんなによく覚えていませんでした。ところが、ちょうどその日は朝っぱらから子供たちが学校で、あれをからかっていたんでございますよ。『やい、糸瓜野郎《へちまやろう》、おまえの親父は糸瓜をつかまれて居酒屋から引っぱり出されたんだ。やあい、それで、おまえはそのそばをかけずり回って、あやまったじゃないか』とはやし立てましてね。三日目の日にあれが学校から帰って来たのを見ますと、まっさおになってしまって、その顔色ったらございません。『いったい、どうしたんだ』と聞いても黙ってるんです。それにわたくしのお屋敷では何一つ話ができんのです。すぐに母ちゃんやお嬢さんたちが口を出しますので。そのうえお嬢さんたちはもう事件のあった当時に、すっかり聞きつけてしまったのでございますよ。ワルワーラなんぞはもう、『この道化者、一度だってお父さんのすることに、理屈のかなったためしはないじゃありませんか?』なんかと、まぜ返し始めたんですよ。『全く、そのとおりだ、ワルワーラさん、わしのすることが理屈にかなうはずはないよ』と言って、その場を濁しときましたよ。その日の暮れがたに、わたくしは野郎を連れて散歩に出かけました。ちょっとお断わりしておきますが、わたしはそれまで毎晩あの子をつれて、今あなたとこうして歩いていると同じ道を、散歩に連れ出していたんですよ。家の木戸から、あの道の籬《まがき》のそばに、たった一つ淋しそうにころがっているあの、すてきに大きな石のところまで行くんです。あの石のところから牧場が始まるんでございますが、閑静な見晴らしのいいところでございますよ。いつものとおり、わたくしは、イリューシャの手を取って歩いておりました。あれの手はまことに小さな手で、指なぞ細くって、冷とうございますんで、なにしろ、あれは胸の病気があるもんでございますから。ところが、不意に、あの子が、『父ちゃん、父ちゃん――』と言いだします。わたくしが、『なんだい?』と言いながらよく見ると、あれの眼が光ってるじゃありませんか。『父ちゃん、あのときね、父ちゃん、ひどい目にあ
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