けても学校でみんないっしょになると、よく残酷になるものでしてね。皆がからかいだすと、イリューシャの心の中にけなげな精神が、むらむらと湧き起こってきたのです。普通の弱い子供なら、いいかげんに降参して、自分の父親を恥ずかしく思うところでしょうが、あれは一人で父親のために皆を向こうにまわしました。父親のために、真理のために、真実のために奮い立ったのです。あのとき、お兄さんの手に接吻しながら、『父ちゃんを堪忍してやってちょうだい。父ちゃんを堪忍してやってちょうだい』とわめいたとき、あの子がどんなつらい思いをしましたか、まあ神様お一人と、それからわたくしのほか、知る者はございませんですよ。全く、手前どもの子供は――つまり、あなたがたのじゃなくて、手前どもの子供で、――人からさげすまれていても、気高い貧乏人の子供というものは、もう九つくらいの年から浮き世の真理をわきまえますからね。金持ちなんかには、どうしてどうして一生涯かかっても、そんな深いところまでわかるもんじゃありません。ところが、うちのイリューシャときたら、例の広場で、お兄さんの手を接吻したとき、その瞬間に真理という真理を一時に試したんでございますよ。この真理があれの頭にしみこんで、永久にあれを打ち砕いたんでございますよ」
 二等大尉はまたしても興奮のために、前後を忘れたかのように、熱心に述べるのであった。述べながら、『真理』がイリューシャの心を打ち砕いたありさまを、まざまざと現わそうとでも思ったかのように、彼は右手を固めて自分の左の掌を打っていた。
「その日、あれは熱を出しましてね、一晩じゅう、うわごとばかり言い通したのです。その日一日というもの、あの子はあまりわたくしに口をききませんでした。黙っていたといってもいいくらいでした。ただ、隅っこの方から、一生懸命にわたくしを見つめていましたが、だんだんと窓の方にもたれかかって、学校のおさらえでもしているように見せかけていましたが、おさらえなんぞに気をとられていないことは、わたくしによくわかりました。次の日は少々飲みましたので、たいていのことは忘れてしまいました。罪の深い男で、ただ憂さ晴らしのために飲んだんでございますよ。母ちゃんもやっぱり泣きだしましてね、――わたくしは母ちゃんをもかなり愛しております、――まあ、悲しさをまぎらわすために、なけなしの金をはたいて飲んだのでご
前へ 次へ
全422ページ中302ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング