んなに、兄さんというお友だちを失うのが残念だとおっしゃっても、やはり兄さんの出立が嬉しいと、当人に面と向かって言ってらっしゃるようなものですよ……」もう全く息を切らしながら、アリョーシャが言った。彼はテーブルのそばに突っ立ったまま、腰をかけようともしなかった。
「いったいあなたは何を言ってらっしゃるんですの。わたし、わかりませんわ……」
「そう、僕自身でもよくわからないんです……僕はふっと、そんな気がしたんです、もちろん、こんなことを言うのは、よくないってことは僕も知っていますが、やはり、それでも、すっかり言ってしまいましょう」アリョーシャは相変わらず、とぎれがちな震え声でことばを続けた。
「ふっと、そんな気がしたというのは、あなたはドミトリイ兄さんを……最初から、……ちょっとも愛していらっしゃらなかったのかもしれないし、……兄さんだって、やはり、あなたを、少しも愛していなかったのではないかしら……そもそもの初めから、……ただ尊敬しているだけだと、そう思ったんですよ。全く僕はどうして今こんな大胆なことが言えるのか、われながら不思議なくらいですが、しかし、誰か一人くらい本当のことを言う人がいなくちゃなりませんね、……だって、ここでは誰ひとり本当のことを言う人がいないんですからね」
「本当のことって何ですの?」カテリーナは叫んだが、なんとなくヒステリックなものが、その声にひびいていた。
「じゃ申し上げましょう」思いきって屋根の上からでも飛び下りるかのように、あわただしくアリョーシャはつぶやいた、「今すぐドミトリイをお呼びなさい――僕が捜してあげましょう、――そして、兄さんがここへ来たら、まず、あなたの手を取ろうとして、そのあとでまた、イワン兄さんの手を取らせ、そうして二人の手を結びつけてもらうのです。なにしろ、あなたはイワン兄さんを愛していらっしゃるために、かえって愛する兄さんを苦しめてらっしゃるからです、……ところが、なぜ苦しめなさるのかと申しますと、それはドミトリイに対するあなたの愛が、発作的なものだからです……偽りの愛だからです、……なぜそうなったかと言いますと、あなたが御自分で御自分を説き伏せていらして……」
アリョーシャは急にことばを切って、黙りこんでしまった。
「あなたは……あなたは……あなたは、ちっぽけな信心きちがいです、それきりの人です!」カテリーナは
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