{節のすべてをけがすに同じ』と申してあるからでござります。わたくしどものほうでは、こんな風にいたしております。しかし、あなた様と比べましたら、これくらいのことがなんでございましょうの!」と坊さんは急に元気づいて言うのであった、「なぜかと申しますると、あなた様は年じゅう――復活祭にさえもパンと水ばかり召し上がっていらっしゃるからです。なにしろ、わたくしどもの二日分のパンは、あなた様の一週間分にも当たるくらいでございますよ。実に驚き入ったる偉大なご精進でございますよ」
「では、蕈《グルーズジ》は?」Г《ゲー》の音を喉《のど》から押し出すように、ほとんどХ《フ》のように発音しながら、だしぬけにフェラポントは尋ねた。
「蕈?」と坊さんはびっくりして問い返した。
「さよう、さよう、わしはあいつらのパンなど少しもいりませんから、そんな物から顔をそむけて、森の中へでもはいって、そこで蕈か苺で命をつなぐわ。ところが、ここのやつらは自分のパンを見すてようとはせんのじゃ。つまり悪魔に結びつけられておるのでな。このごろ、けがらわしいやつらは、そんな精進することはいらんなどと言いおるが、そういうやつらの考えは、まことに高ぶってけがらわしいものじゃ」
「おお、さようでございますよ」と坊さんは嘆息した。
「あいつらのところで悪魔を見たかの?」とフェラポントが尋ねた。
「あいつらとは誰のことでございます?」坊さんは恐る恐る問い返した。
「わしは去年の神聖金曜に修道院長のところへまいったが、それ以来少しも出かけんのじゃ。そのときに悪魔を見たのじゃ。ある者は胸の所に抱いて衣のかげに隠し、ただちょっと顔だけのぞかしておる。またある者はかくしの中からのぞかせていたが、悪魔め、眼ざといもので、わしをこわがっている。ある者はよごれきった腹の中に巣をくわせており、またある者は首にかじりつかせて、ぶら下げておるが、当人はいっこうそれに気がつかずに連れて歩いておるのじゃ」
「あなた様……お見えになりますかな?」と坊さんは尋ねた。
「見えると言うたでないか。ちゃんと見え透いておるわ。わしが院長のところから出て来ると、一匹の悪魔がわしをよけて、戸のかげへ隠れるのが見えたのじゃ。そいつがなかなか大きなやつで、背の高さ三尺もある。太くて長い茶色の尻尾《しっぽ》をしておったが、その先がちょうど、戸のすき間へはいったのじゃ。
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