ゥなすったのに……」
「違いますのよ、お嬢様、あたし、なんにもお約束なんかしませんわ」と、やはり嬉しそうな無邪気な表情をしたまま、静かにすらすらとグルーシェンカがさえぎった、「そうらね、これでおわかりになったでしょう、お嬢様。あたし、あなたに比べたら、こんなに恥知らずな、気ままな女なんですからね、あたし、こうしようと思うとすぐそのとおりにしてしまう性分なんですの。さっきはほんとに何かお約束をしたかもしれませんけど、今また、ようく考えてみますと、急にまた、あの人が好きになるかもしれませんわ、あのミーチャが、――前にだって、あの人が好きになったことがありますのよ、まる一時間ぐらい気に入ってたことがありますわ。だから、これから帰って行って、今日から家に落ち着いてしまいなさいって、あの人に言わないとも限りませんわ……ね、あたしこんなに気の変わりやすい女ですの……」
「さっきおっしゃったことは……なんだかまるきり違っていましたわ……」カテリーナ・イワーノヴナはやっとこれだけのことをつぶやいた。
「ええ、さっきはね! あたし気の弱いばかな女ですから、あの人がこのあたしのために、どんな苦労をしたかと考えてみただけでもね! ほんとに家へ帰ってから、急にあの人が気の毒にでもなったら――その時どうしようかしら?」
「わたし、ほんとに思いもかけませんでしたわ……」
「まあ、ほんとにお嬢様は、あたしなんかと比べると、なんてお優しくて、気高いおかたでしょうね! たぶんもう、こういう気性がおわかりになっては、あたしのようなばか女には愛想をおつかしになったでしょうね。お嬢様、どうぞその可愛らしいお手をお貸しくださいまし」彼女はしとやかにこう言って、うやうやしげにカテリーナ・イワーノヴナの手を取った、「ねえ、お嬢様、あたしこうしてあなたのお手を取って、先刻あたしにしてくだすったとおんなじように接吻しますわ、あなたはあたしに三度接吻してくださいましたけれど、あたしなら三百ぺんも接吻しなければ勘定が済みませんわ。さあそれだけはしなくちゃなりませんわ、それ以上は神様のおぼしめしにもあることで、事と次第によっては、あたし、すっかりあなたの奴隷になって、なんでもお気に召すとおりにするかもしれませんわ、相談や約束なんかしないで、神様がお決めになったとおりにいたしましょうね。まあ、このお手、なんて可愛いお手でし
前へ 次へ
全422ページ中221ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング