のところで言った自分のことばが、ふと胸に浮かんだのである。『わたくしはどこか人中へはいって行く時いつも、自分が誰よりも下劣な人間で、人から道化もの扱いにされるような気がします。そこでわたくしは、それじゃひとつほんとに道化を演じてやろう。なあに、あいつらのほうがみんなそろいもそろっておれよりばかで下劣なんだ、という気になるのでございます』彼は自分自身の卑劣さに対して、人に仇《かたき》を打とうという気になったのである。ふと今、彼はいつかだいぶ前に、『あなたはどうしたわけで誰それをそんなに憎むのです?』と聞かれたことを思い出した。そのとき彼は道化た破廉恥のこみあげるままに、こう答えた。『それはこうですよ、あの男は実際わしになんにもしやしませんが、その代わりわしのほうであの男に一つきたない、あつかましい仕打ちをしたんです。すると急にわしはあの男が憎らしくなりましてね』今それを思い出すと、彼はちょっとのあいだ考えこみながら、静かな毒々しい薄笑いを浮かべた。その眼はきらりと光った、唇まで震えだした。『どうせいったんやりかけたものなら、ついでにしまいまでやっちまえ』彼は急にこう決心した。この瞬間、彼の心の底に潜んでいた感じは、このようなことばで現わすことができたであろう。『もう今となっては名誉回復もおぼつかない、ええ、かまうもんか、もう一度あいつらの顔に思いきり唾《つば》をひっかけてやれ。なんの、あいつらに斟酌《しんしゃく》することがあるもんか、それっきりのことさ!』彼は御者に待っておるように言いつけておいて、急ぎ足に修道院へとって返し、まっすぐに院長のところへおもむいた。彼はまだ、何をするつもりなのか自分でもよくわかっていなかったが、もうこうなっては自分を押えることができない、何かちょっとした衝動があったら、それこそたちまち、極端な陋劣な行動に出るだろう、ということはよく承知していた。しかし、それは単に陋劣な行為にとどまって、犯罪だの、裁判ざたになるような悪ふざけというようなものではけっしてない。この点では、彼はいつもおのれを抑制するすべを心得ていて、ときには自分でも感心するほどうまくゆくことがあった。彼が修道院長の食堂へ姿を現わしたのは、いま祈祷が済んで、一同が食堂に近づいた瞬間であった。彼は閾《しきい》の上に立ち止まって、一同をひとまわり見回すと、みんなの顔をじろじろと眺め
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