のような点と、それにまた厳粛な点において一同を驚かした。人々は一瞬、声をひそめた。アリョーシャの顔にはほとんどおびえたような表情が浮かんだほどである。しかし、突然ミウーソフがひょいと肩をすくめると、それと同時にフョードル・パーヴロヴィッチは椅子から飛び上がった。
「神のごとく神聖な長老様!」こう彼はイワン・フョードロヴィッチを指しながら叫んだ。「これはわたくしの息子で、わたくしの肉から出た肉、わたくしの最愛なる肉でございます! これはわたくしの、いわば最も尊敬すべきカルル・モールでございまして、こちらの――たった今はいってまいりました息子のドミトリイ・フョードロヴィッチ、つまり、こうしておさばきをお願いすることになりました当の相手でございますが――これは最も尊敬すべからざるフランツ・モールでございます――どちらもシルレルの『群盗』の中の人物でございますが――ところで、わたくしはさしずめ Regierender Graf von Moor の役回りでございます! どうか御判断のうえ、お助けを願います! あなた様のお祈りばかりでなく、御予言までお聞かせ願いたいのでございます」
「そのような気ちがいじみた物の言い方をなされぬがよい。また自分の家族をはずかしめるようなことばで、口をきるものではありませんじゃ」と長老は弱々しい疲れきった声で答えた。明らかに彼は、疲労が加わるにつれて、だんだん目に見えて気力を失っていった。
「愚にもつかない茶番です。それは僕がこちらへまいる道すがら、もう感づいていたことです!」と、ドミトリイ・フョードロヴィッチは憤懣《ふんまん》のあまり、そう叫ぶと、同じく席を飛び上がった。「お許しください、長老様!」と、彼はゾシマのほうへふり向いて「僕は無教育な男ですから、何と言ってあなたをお呼び申したらいいかさえ知らないくらいですが、あなたはだまされていらっしゃるのです。わたくしどもにここへ集まることをお許しくだすったのは、あんまりお心が優しすぎたのです。親爺《おやじ》に必要なのは不体裁なばか騒ぎだけなんです。何のためか――それは親爺の方寸にあることです。親爺にはいつも自己流の打算があるのですから。しかし今になって、どうやらその目的が僕にわかってきたようです……」
「みんなが、みんながわたくし一人を悪しざまに申します!」と今度はフョードル・パーヴロヴィッチの
前へ
次へ
全422ページ中98ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング