ワン・フョードロヴィッチは薄笑いをした。
「なぜかといえば、あなたはどうやら自分の霊魂の不滅も、そればかりか自分で教会や教会問題について書かれたことも、信じておられぬらしいからじゃ」
「あるいは仰せのとおりかもしれません!……しかしそれでも、僕はまるきりふざけたわけではないのです……」と、イワン・フョードロヴィッチは不意に奇妙な調子で白状したが、その顔はさっと赤くなった。
「まるきりふざけたのではない、それは本当じゃ。この思想はまだあなたの心の内で決しられていないで、あなたの心を悩ましておるのじゃ。しかし、悩める者は、時には絶望のあまり、おのれの絶望を慰みとすることがある。あなたも今のところ、絶望のあまりに雑誌へ論文を載せたり、社交界で議論をしたりして慰んでおられる。しかも自分で自分の議論が信ぜられず、胸の痛みを感じながら、心の中でその議論を冷笑しておられるのじゃ……。実際あなたの心の中でこの問題は決しておらぬ。ここにあなたの大きな悲しみがある。なぜといえば、それが執拗に解決を強要するからじゃ……」
「これが僕の心中で解決されることがありましょうか? 肯定的に解決されることが?」依然としてえたいの知れぬ薄笑いを浮かべたまま、長老の顔を見つめながら、イワン・フョードロヴィッチは奇妙な質問を続けるのであった。
「もし肯定の方へ解決することができなければ、否定のほうへもけっして解決せられる時はない――こういうあなたの心の特性は、御自身でも承知しておられるじゃろう。これが、あなたの心の苦しみなのじゃ。しかしこういう苦しみを苦しむことのできる、高遠なる心をお授けくだされた創世主に感謝せられるがよい。『高きものに思いをめぐらし高きものを求めよ、なんとなればわれらのすみかは天国にあればなり』願わくば神の御恵みをもって、まだこの世におられるうちに、この解決があなたの心を訪れますように、そしてあなたの歩まれる道が神によって祝福せられますように!」
長老は手を上げて。その場からイワン・フョードロヴィッチに向かって十字を切ってやろうとした。しかしこちらは突然、椅子を立って長老に近寄り、その祝福を受けて、手を接吻すると、無言のまま自分の席へ戻った。彼の顔つきはしっかりしていてきまじめだった。このふるまいと、それに前述のイワン・フョードロヴィッチとしては思いもかけない長老との会話は、その謎
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