ほうがわめき立てた。「現にミウーソフさんもわたくしを責めます。いやミウーソフさん、責めましたよ、責めましたよ!」と、不意に彼はミウーソフのほうをふり向いた。だがミウーソフは別に口出しをしたわけではないのである。「つまりわたくしが子供の金を靴の中へ隠してちょろまかしてしまったといって責めるのです。が、しかし裁判所というものがありますからね。ドミトリイ・フョードロヴィッチ、あすこへ出たら、おまえさんの書いた受け取りや手紙や契約書をもとにして、おまえさんのところに幾ら幾らあったか、おまえさんがいくらいくら使ったか、そして今、いくらいくら残っているかを、すっかり勘定してくれまさあね! ミウーソフさんが裁判にかけるのを嫌うわけは、ドミトリイ・フョードロヴィッチがこの人にとってもまんざらの他人ではないからですよ。それでみんながわたくしに食ってかかるんですけれど、ドミトリイ・フョードロヴィッチは差し引きわたしに借りがあるのですぜ。それも少々のはした金じゃなくって、何千という額ですからな。それにはちゃんと証文があります! なにしろこの人の放蕩の噂で、いま町じゅうがひっくり返るほどの騒ぎですからなあ! それに、以前勤めておった町でも、良家の娘を誘惑するために、千の二千のという金を使ったもんでさあ。それはもう、ドミトリイ・フョードロヴィッチ、よっく承知しとりますよ、ごく内密な詳しいことまで知っとりますよ、わしが立派に証明してみせますよ……神聖な長老様。あなたは本当になさるまいけれど、この男は高潔無比な良家の娘を迷わしたのでございます。父御というのは自分の以前の長官で、聖アンナ利剣章を首にかけた、勲功の誉れ高い勇敢な大佐なのです。そのお嬢さんに結婚を申しこんでひどい目にあわせたために、当の令嬢は今|孤児《みなしご》としてこの町に暮らしております。もう許婚《いいなずけ》のあいだがらであるくせに、あれはその女《ひと》を目の前に置いて、この町の淫売女《いんばいおんな》のところへ通っておるのでございます。もっともこの淫売女はさる立派な男といわば内縁関係を結んでいて、それになかなか気性のしっかりした女ですから、誰にかけても難攻不落の要塞で、まあ正妻も同じこってさあ。なにしろ貞淑な女ですからなあ、全く! ねえ、神父さんがた、実に貞淑な女でございますよ! ところがドミトリイ・フョードロヴィッチはこの要
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