の申し上げることを残らず信じていただこうなどという、大それた望みは持っておりませんけれど、けっして軽はずみな考えで、ただいまこんなことを申し上げるのではないことは、どこまでも立派に断言いたします。ほんとにこの来世という謎のような考えが、苦しいほど、恐ろしいほど、わたくしの心をかき乱すのでございます……それだのに誰にこの苦しみを訴えたらよいか、生涯わたくしは存じ及びませんでした……けれども今、わたくしは思いきってあなたにこれをお訴えいたします……。まあ、ほんとにあなたは、このわたくしをどんな女だとお思いあそばすでございましょう!」夫人は思わず手を打った。
「わしの思わくなぞ懸念することはありませんぞ」と長老が答えた。「わしはあなたの悩みの真実なことを、どこまでも信じきっておりますじゃ」
「まあ、ほんとにありがとうございます! それで、わたくしはよく目をつぶって、こんなことを考えるのでございます――もしすべての人が信仰を持っているのだったら、どこからそれを得たのでしょう? ある人たちの説くところでは、すべてそれは、初め自然界の恐ろしい現象に対する恐怖の念から起こったもので、本来は何もあるものではないというのだそうでございます。ところで、わたくしそう思いますの――こうして一生、信じ通しても、死んでしまえば急に何もかもなくなってしまって、ある小説家の書いたもので見ましたように、『ただ墓の上に山牛蒡《やまごぼう》が生えるばかり』であったら、まあどうでございましょう。それは恐ろしいことでございます! 本当にどうしたら信仰を呼び戻すことができましょうかしら? もっとも、わたくしが信じておりましたのは、ほんの小さい子供のころだけで、それもなんの考えもなく機械的に信じていたのにすぎませんけれど……どうしたら、本当にどうしたらこのことが証明できましょうか、今日わたくしはあなたのお前にひれ伏して、このことをお尋ねしようと存じて、お邪魔にあがったのでございます。だって、もしこの機をのがしましたなら、生涯わたくしの問いに答えてくれる人はございませんもの。どうしたら証明ができましょうか、どうしたら信念が得られましょうか? ほんとにわたくしは薄倖《ふしあわせ》でございます。じっと立ってぐるりと眺めましても、みんな、たいていの人が平気な顔をしています、今ごろ誰ひとりそんなことに心を煩わしている人は
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