石段の上に出て来たから、助かつたのだ。若し裁判所長があの火を見付けようものなら、それはお前方を着物の好く乾くやうな所へ入れて遣る所だつた。やれ/\。お前方はサルタノフの首を斬つたといふ事だが、余り智慧は無いと見えるな。早く火を綺麗に消して、河の側を離れて、谷の深い所へもぐつてしまへ。あの奥の方なら、十個処へ火を焚いても、どこからも見えはしない。」
こんな風に口汚なく言はれながら、わたくし共は爺いさんを取り巻いて立つてゐて、皆揃つて笑つてゐました。
爺いさんは小言を言ひ止めて、かう云ひました。「己はそこのボオトの中に、パンや茶を入れて来た。どうぞこれから先も、サマロフの事を悪く思はないでくれ。若しお前方が旨くこの土地を逃げおほせて、誰か一人トボルスクへ行つたものがあつたら、あそこの寺に、己の守本尊があるから、蝋燭を一本上げてくれ、己は女房の持つて来た地面と家とがこの土地にあるから、多分こゝで死ぬるだらう。それに大ぶもう年を取つてゐる。それでも故郷の事は折々思ひ出すよ。さあ/\、これで好い。もうお別れにしよう。ところでまだ一つお前方に言つて置く事がある。そろ/\お前方は別れ/\になるが
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