の幹を楯に取つて、ダルジンがゐて、それがかう云ひました。「おい。ワシリ。なんだかあの裁判所長の声は聞き覚えがあるやうだな。」
「しつ。待て待て。人数が少いぜ。」
かう云つてゐる内に、船から来た連中の一人が前へ出てかう言ふのです。「おい、こはがるには及ばない。お前方だつて、この土地の監獄で、知つてゐる役人が一人位あるだらう。」
わたくし共は黙つてゐました。
その男が又かう云ひました。「なぜ返事をしないのだ。この土地の役人で、お前方が名を知つてゐるのがあるなら云つて見ろ。さうしたら、己達の事が分かるかも知れないから。」
わたくしが云ひました。「知つてゐても知らなくても、そんな事はどうでも好いが、己達の為めばかりではない。お前方もこゝで出つ食はしたのは不運だ。己達は息のある間は降参はしないぞ。」
わたくしはかう云つて置いて、同志の者に用意をしろといふ相図をしました。相手は五人で、こつちは十一人だ。どうぞ銃を打たないでくれゝば好いが、銃の音がし出しては、町で聞き附けずにはゐないだらう。兎も角ももう駄目かも知れない。併し素直には押へられたくないものだと思つてゐました。
その時さつきの
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