ふわけには行きません。
わたくしが少し詞を控へてゐるのを見て、相手は直ぐにわたくしの腹の中を見透《みす》かしてしまひました。
「己をこはがるのぢやないぞ。己は仲間の告口をするやうな人間ではない。それに何も己の関係した事ぢやあるまいし。町ではもうあの一件を知らないものはない。それにお前方を見れば、丁度同勢十一人だ。余り智恵がなくつても、その連中だらうといふ事は分かつてしまふ。その辺にうろ付いてゐると、ひどく危ないぜ。あの事件は大騒ぎになつてゐる。こゝの裁判所長は恐ろしく厳しいのだ。まあ、どうしてこゝを切り抜けるか、それはお前方の事だが、旨く行つたら大したものだ。幸ひ己達は少し食料も余計に持つてゐるから、町へ帰つたら、パンや肴を少し位、お前方に分けて遣らう。鍋なんぞもいりはしないか。」
「さうだね。若しお前の方で不用な鍋でもあれば難有いが。」
「好い。遣るとしよう。まだ何か思付いたものがあつたら、一しよに纏めて、晩に持ち出して遣る。仲間は助けて遣らなくてはならないからな。」
わたくし共はこの話をしてから、重荷を卸したやうな気がしました。そこで帽を脱いで、その男に礼を言ふと、同志の者も皆
前へ
次へ
全94ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
コロレンコ ウラジミール・ガラクティオノヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング