岸に出ました。そこに人が集つてゐます。何ものだらうと思つて、好く見ると監視中の囚人です。(ロシアでは懲役になつて、刑期が過ぎ去ると、それそれの村に返して監視して置く。併し労働は監視を受けて規則通りにしてゐる。)それが肴を取つてゐます。わたくし共はその様子を見定めてから側へ寄つて行きました。「おい、どうだね。」
「うん、どこから来たのだい。」
 こんな風に詞を交して、いろんな事を話す内に、その仲間の一番年上の奴が、わたくしを側へ呼んでかう云ふのです。「お前、樺太を脱けて来たのだらう。あのサルタノフを遣つ付けた連中だらう。」
 正直を云へば、この時わたくしは本当の事を直ぐに云ひにくいやうに思つたのです。勿論相手も同じ罪人ではあるが、物に依つては打ち明けにくい事もあります。殊に監視中の人間は、本当の囚人仲間とは違ひます。この年上の男にしろ、その外の男にしろ、役人の機嫌が取りたいと思へば、直ぐに行つてわたくし共の事を密告する事が出来ます。自分達は兎に角或る自由を得てゐるのですからね。同じ牢屋の中に這入つてゐれば、密告をした奴は分かるから、そんな事は出来ない。こんな手放しにしてある人間は、さうい
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