が吹いて来て、森の木の葉が囁くやうな音を立てゝ、直ぐに又ひつそりします。遠い所に、木の葉の間から海が見えます。その上には空が広がつてゐます。その空のずつと先の地平線の所が、ぼんやり赤くなつてゐる。今少しすると日が出るといふ印ですね。海の見えるやうな所では、波の音が聞え止む事はありません。どこかの余所の国の歌を歌ふやうな時もあり、又腹を立てゝどなつてゐるやうな時もあります。海の歌を歌ふ声は、よく夢にも聞えます。流浪人は海を見ると、胸に係恋《あこがれ》を覚えます。大抵海には縁の遠い世渡をしてゐますからね。
わたくし共は段々ニコラエウスクに近づいて来ました。次第に人家や部落が多くなります。随つて次第に危険になつて来るのです。わたくし共は用心してそろ/\町の方へ忍び寄ります。夜になると歩いて、昼間は、人間どころではない、獣もゐないやうな森の茂みに隠れてゐるのです。
一体わたくし共はずつと大きい輪をかいて、ニコラエウスクの側へ寄らないやうにする積りでした。ところが体が疲れてゐて、遠道が歩きたくないのと、食料が段々乏しくなつたのとで、どうもさうしてはゐられなくなつたのです。
或る日の夕方河の
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