れば、物惜しみはしなくなります。わたくし共も、自分で自分の事を話しながら、感動して来ました。この留守番なんぞは、今こつちに同情してゐてくれても、直ぐに欠伸《あくび》をして寝に這入つてしまふだらう。食べたい程物を食べて、暖かい床に這入つて寝るだらう。こつちはこれから踏み出して、人に隠れて悪病に罹かつた獣か、夜明方の幽霊のやうに、暗い森の中を迷ひ歩かなくてはならないのだと思つたのです。
留守番はかう云ひました。「そこでわたしはもう寝なくてはならん。こゝの支配人の言ひ置かれただけのものは、相違なくお前さん達に上げる。それからわたしの手から、一人前二十銭づつ添へて上げる。どうぞそれで帰つて下さい。今頃百姓共を皆起す事は止めにしよう。こゝに三人だけは起きてゐて、それが正直な人達だから、跡で証人にするには十分だらう。お前さん達に、長く足を留めてゐられると、こつちも一しよに迷惑をする事になるかも知れない。悪い事は云はないから、ニコラエウスクへは寄らないが好い。あそこには厳しい裁判所長がゐる。通り抜ける旅人を一々調べる。鵲《かさゝぎ》一羽でも、兎一疋でも、己の前は素通りはさせない。樺太から来た奴なん
前へ
次へ
全94ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
コロレンコ ウラジミール・ガラクティオノヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング