。そして話を為掛《しか》けてあるのを忘れたか、それとも跡を話したくなくなつたかと思はれる様子をしてゐる。そこで話の結末が聞きたいと云つて催促して見た。
ワシリは機嫌を直さずに答へた。「なんの話す程の事があるものですか。どんな事を云つて好いか、分からなくなつてしまひました。兎に角随分ひどい目に逢つたのですよ。ああ。併し話し出したものですから話してしまはなくてはなりますまいなあ。」
「それから十二日の間歩きましたが、まだ島の果までは行き付かなかつたのです。一体なら八日で、向岸へ越される筈なのですが、用心をしなくてはならないのと、案内者の好いのがないのとで、無駄をしたのです。海岸を歩けば平地であるのに、岩山に登つたり、谷合《たにあひ》の沼を渡つたりして時間を費したのです。最初出立する時、十二日分の食物を用意したのですから、それもそろそろ無くなり掛かつて来ました。そこで一度分の分量を減らしました。堅パンの残つてゐるのを、成るたけ食べてしまはないやうにして、てんでに食物を捜して、それで飢を凌いだのです。森の中には木の実が沢山あるものですから、成るたけそれを取つて食べるやうにしました。
そんな
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