う大ぶ久しい間見ずにゐたのです。ヤクツク人は大抵固まつて住はないで、一人一人別な所に住ひますからね。わたくしもこつちの方へ越して来ませうか。こゝいらなら住み付かれるかも知れませんね。」
「ふん。今お前さんのゐる所には住み付かれないのかね。田地を持つてゐるぢやないか。それにさつきも今の境遇に安んじてゐるやうに云つてゐたぢやないか。」
 ワシリは直ぐには答へなかつた。「どうも行けませんね。この辺の様子を見なければ好かつた。」
 ワシリは馬の側へ寄つて顔を見て、撫でて遣つた。賢い馬は顔を見返して嘶《いなゝ》いた。ワシリは、さすりながらかう云つた。「よしよし。待つてゐろ。今に外して遣る。あした又働いてくれなくてはならないぞ。あしたは韃靼《だつたん》の馬と駈競《かけくら》をするのだ。」
 それから己の方に向いて云つた。「好い馬ですよ。わたくしが乗り馴らしました。どんな競馬馬と駈競をさせても好いのです。旋風《つむじ》のやうに走りますよ。」
 ワシリは繩を解いて枯草のある方へ馬を遣つた。己はワシリと一しよに天幕の内へ這入つた。

     七

 ワシリの顔は天幕に帰つてからも矢張不機嫌らしく見えた
前へ 次へ
全94ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
コロレンコ ウラジミール・ガラクティオノヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング