意もしなくてはなるまいな。」
 ブランは元気のない様子をして答へた。「己も格別相談相手にはなるまいよ。随分むづかしい為事だ。もう己の年では柄にない。だからお前自分で遣らなくては駄目だ。これから三日程立つと、幾組にも分けて為事に出されるだらう。この監獄の外に出るだけなら、その時勝手に出されるのだ。だが品物は持ち出す事が出来ない。どうするが好いといふ事は、お前考へて見なさい。」
「さう云はないで、お前考へて見てくれ。お前の方が馴れてゐるのだから。」
 かう云はれたが、ブランは不熱心で、不機嫌で、只ぶら/\歩いてゐる。誰とも話をしない。どうかすると空《くう》を見て独語《ひとりごと》を言つてゐる。これで三度目に樺太を脱ける筈のこの年寄の流浪人は、見る見る弱つて行くらしい。
 彼此する内に、ワシリはブランの外に十人の同志を糾合した。いづれ劣らぬ丈夫な男である。そこでブランを捉まへて、元気を付けるやうにして、これまでのやうに冷淡でゐずに、逃亡の計画を立てゝ貰ひたいと云つて迫つた。折々はブランも話に乗つて来た。併し色々話した末には、どうも脱ける事はむづかしいとか、今度の企の不成功になるらしい前兆があ
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