るとか云ふやうな事を云つてゐる。
「どうも己はこの島から外へは出られさうでないよ」と云ふのが老人の口癖で、この詞で絶望の心持を表白してゐるのである。
折々元気が好いと、老人も昔脱獄を為遂《しと》げた時の事を思ひ出して、夕方になつて、自分は床の上に寝てゐながら、ワシリに島の地理を話し、逃げ出す時、どの道を逃げなくてはなるまいといふやうな事を言つた。
ヅエエの港は樺太島の西岸にあるから、アジア大陸に向つてゐるのである。こゝの海峡は三百ヱルストの幅である。小船ではとても渡られない。だから逃げようと思ふものは、大抵外の場所から逃げる。
只逃げるだけの事は余りむづかしくはないらしい。ブランはかういふのである、「死ぬる覚悟でさへあるなら、どこへでも行かれるよ。島は広くて、野と山とがあるばかりだ。土人だつて、どこでも勝手な所に住まふといふ事は出来ない。右の方へ行くと、岩ばつかりある中へ迷ひ込んで、森から出て来る飢ゑた獣に食はれるか、さうでなければ、諦めて戻つて来る様になる。南の方へ行くと、島の果だから、海に出る。その方からは大船でなくては渡られない。それだから逃げる道は只一方しかない。北の方だ
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