が利かなくなつては駄目だ。あの海の凄い音を聞いてくれ。」

     五

 第七号舎からこれまでそこに住んでゐた囚人を出して、その跡へ今度来たのを入れて、最初の間出口に番兵を付けて置いた。もし番兵を付けなかつたら、これまで厳しく見張をせられてゐた癖が付いてゐるから、それが無くなつた為め、小屋から出した小羊の群のやうに、直ぐに島中にちらばつてしまふからである。
 もう久しい間島に置いてある囚人なら、見張なんぞをするには及ばない。さういふ囚人は土地の様子を精《くは》しく考へてゐるから逃げようとはしない。この島で逃げ出すのは、随分思ひ切つた為事《しごと》で、逃げたものはきつと死ぬると云つても好い位である。たまに逃亡を企てるものもあるが、それは余程決心した人間で、その決心も熟考した上の事である。そんなのを番兵で取り締まらうとしても駄目である。どうしたつて、逃げようと思へば逃げるし、又無理に留めて置いても苦役には服せない。
 島に来てから三日目に、ワシリはブランに言つた。「お前に相談するのだが、どうだらう。己達の仲間では、お前が一番年上だ。お前が先に立つて指図してくれなくてはならない。糧食の用
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