真《ま》つ昏《くら》になつた港の所々に微かな火が点《とぼ》してある。波は砂に打ち寄せてゐる。空には重くろしい雲が一ぱい掛かつてゐる。誰も誰も沈鬱な、圧迫せられるやうな思をしてゐる。
老人ブランが小声で云つた。「これがヅエエといふ港だ、当分はこゝの監獄に置かれるのだ。」
土地の官憲が立ち会つた上で、点呼が始まつた。一組の点呼が済むと、上陸させられる。数箇月の間船に押し込まれてゐた囚人が、久し振りに陸地を踏むのである。今まで彼等を載せて、波に揺らせてゐた船は白い煙りを吐いてゐる。その煙りが夕闇の中で際立つて見えてゐる。
目の前に明りが見える。人の声がする。
「囚徒か。」
「はあ。」
「こつちだ。七号舎に這入るのだ。」
囚人の群はその明りに近づいて行く。列を正して行くのではない。ぞろぞろと不規則な群をなして、押して行くのである。随分ごたごたするのに、いつものやうに、脇から銃床《じうしやう》でこづかれないのを、囚人等は不思議なやうに感じた。
囚人の一人が呆れた様子で囁いた。「どうだい。番兵も何も附いてゐないぢやないか。」
これを聞いたブランが小言らしくつぶやいた。「黙つてゐろ。
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