lまらぬ事にもせよ、此流義で為遂げる。そこで其事が成就してしまふと、直ぐにそれを擲《なげう》つて、何か新しい方角に向つて進む。兎に角或る事件を企てる、それを成功して人を凌駕しようとする精神がこの男を支配してゐる。最初に聯隊に這入つた時、ステパンは一つこの勤務と云ふものを飽くまで研究しようと思つた。そこでステパンは間もなく聯隊中の模範将校になつた。併し惜しい事には例の激怒がどうかすると発する。そこで勤務上にも考科に疵を付けるやうな不都合の出来る事があつた。
 ステパンは後に上流社会で交際するやうになつてから自分の普通教育の足りない事に気が付いた。そこでその穴埋をしようと思つて、すぐに種々の書物を買ひ込んだ。そして間もなく目的を達した。次いで交際社会で立派な地位を占めようと思つた。そこで舞踏の稽古をして上手になつた。上流社会で舞踏会や夜会を催す事があると、ステパンはきつと請待《しやうだい》せられる事になつた。ところがそれまでになつたステパンの心中には満足の出来ない事があつた。それはどこへ往つても第一の地位を占めようと思つてゐるのに、実際は中々それどころではなかつたからである。
 その頃の上
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