゚》には普通の立派な青年近衛士官で、専念に立身を望んでゐるものとしか見えない。併しその腹の中に立ち入つて見ると、非常に複雑な、緊張した思慮をめぐらしてゐる。その思つてゐる事は子供の時から種々に変化したやうである。それは真に変化したのではない。煎じ詰めて見れば只一つの方針になる。即ち何事に依らず完全に為遂《しと》げて、衆人の賞讃と驚歎とを博せようとするのである。例之《たとへ》ば学科は人に褒められ、模範とせられるまで勉強する。さてその目的を達してしまふと、何か外の方角へ手を出すのである。そんな風で、幼年学校にゐた間、あらゆる学科の最優等生になつてゐた。その頃フランス語の会話が只一つ不得手《ふえて》であつた。そこで非常にフランス語を研究して、とう/\ロシア語と同じやうにフランス語を話すことが出来るまでに為上げた。遊戯の中で将棋なども、習ひ始めてからは、生徒仲間で一番に成るまで息《や》めなかつた。
此男が士官になつてからは、本務上陛下に仕へ本国の為めに勤務するのは無論である。併しその外にいつも何か一為事《ひとしごと》始めてゐる。然もその副業に全幅の精神を傾注して成功するまでは息めない。どんな
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