]ふ事があつた。ステパンは鉱物の標本を集めて持つてゐた。それを一人の同窓生が見て揶揄《からか》つた。するとステパンが怒つて、今少しでその同窓生を窓から外へ投げ出す所であつた。又今一つかう云ふ事があつた。ステパンの言つた事を、或る士官がに※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]だと云つて、平気でしらを切つた事がある。その時ステパンはその士官に飛び付いて乱暴をした。人の噂では士官の面部を打擲《ちやうちやく》したと云ふことである。兎に角普通なら、この時ステパンは貶黜《べんちつ》せられて兵卒になる所であつた。それを校長が尽力して公にしないで、却てその士官を学校から出してしまつた。
 ステパンは十八歳で士官になつた。そして貴族ばかりから成り立つてゐる近衛聯隊の隊附にせられた。ニコラウス帝はステパンが幼年学校にゐた時から知つてゐて、聯隊に這入つてからも特別に目を掛けて使つてゐた。それで世間ではいづれ侍従武官にせられるものだと予想してゐたのである。
 ステパンも侍従武官になることを熱心に希望してゐた。それは一身の名誉を謀《はか》るばかりではない。幼年学校時代からニコラウス帝を尊信してゐたか
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