ウにその顛末を前の僧院の長老に打ち明けて、どうぞ力になつて自分を堕落させないやうにして貰ひたいと頼んだ。セルギウスはそれだけではまだ不安心のやうに思つたので、自分に付けられてゐる見習の僧を呼んで、それに恥を忍んで自分の情慾の事を打ち明けて、どうぞこれからは己が勤行に往くのと、それから懺悔に往くのとの外、決してどこへも往かぬやうに、側で見張つてゐてくれと言ひ含めた。
新しい僧院に入つてから、セルギウスは今一つの難儀に出逢つた。それは今度の僧院の長老が自分の為めにひどく虫の好かぬ男だと云ふことである。此長老は頗る世間的な思想を持つてゐる、敏捷な男である。そして常に僧侶仲間の顕要な地位を得ようと心掛けてゐる。セルギウスはどうかして自分の心を入れ替へて今の長老を嫌はぬやうになりたいと努力した。その結果セルギウスは表面的には平気で交際することが出来るやうになつた。併しどうしても心の底では憎まずにはゐられない。そして或る時この憎悪の情がとう/\爆発してしまつた。
それは此僧院に来てからもう二年立つた時の事であつた。聖母の恩赦の祭日に本堂で夜のミサが執行《しゆぎやう》せられた。参詣人は夥《おびた
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