ェに遂行せずには置かなかつた。詰り軍隊に於ける実務の能力に、ステパンは新しいレコオドを作つたのである。さて今僧院に入つたところで、ステパンはこゝでも同じやうに成功しようと思つた。そこでいつも勉強する。慎深くする。謙遜する。柔和に振舞ふ。行為の上では勿論、思想の上でも色慾を制する。それから何事に依らず服従する。
 中にもこの服従と云ふものが、ステパンの為めには、僧院内の生活を余程|容易《たやす》くしてくれる媒《なかだち》になつた。宮城のある都に近い僧院で、参詣する人の数も多いのだから、ステパンがさせられる用向にも、随分迷惑千万な事が少くない。さう云ふ時にステパンは何事にも服従しなくてはならぬと云ふ立場からその用向を辨ずることにしてゐる。宝物の番人をさせられても、唱歌の群に加へられても、客僧を泊らせる宿舎の帳面附をさせられても、ステパンは己は何事に付けても文句を言ふべき身の上ではない、服従しなくてはならないのだと、自分で自分を戒めて働いてゐる。それから何事に付けても懐疑の心が起りさうになると、これも師匠と定めた長老に対する服従と云ふところから防ぎ止めてしまふ。若しこの服従と云ふことがなかつ
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