肥満《ふとっちょ》のタラスは借金で首が廻らなくなって、父親のところへにげ帰って来たのでした。
 タラスはイワンを見て言いました。
「おい、もう一度商売が出来るまでおれと家内を養ってくれ。」
「いいとも、いいとも。」
とイワンは言いました。
「よかったら、いつまでもいなさるがいい。」
 イワンは上着をぬいで、椅子に腰を下そうとしました。するとタラスのおかみさんが言いました。
「私はこんな土百姓と一しょに御飯はいただけません。この汗の臭《におい》ったらがまんが出来ません。」
 そこで肥満《ふとっちょ》のタラスは言いました。
「どうもお前の臭いはひどすぎる。外で飯を食ってくれないか。」
するとイワンは言いました。
「いいとも、いいとも。どのみち私は馬の世話をしなくちゃならん。飼葉を刈る時刻だからね。」

        五

 タラスの係の小悪魔も、その晩手が空《す》いたので、約束どおりイワンの馬鹿を取っちめるために、仲間へ手をかすつもりでやって来ました。彼は畑へ行ってさんざん仲間をさがしましたが、一人もいませんでした。ただ一つの穴を見つけただけでした。彼は今度は牧場へ行って沼地で小悪魔
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