靄の彼方
――現代風俗描写への待望――
上村松園
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)心忙《こころせわ》しい
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)裸にあらわ[#「あらわ」に傍点]に見え
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心忙《こころせわ》しい気もちから脱れて、ゆっくり制作もし、また研究もしたいと年中そればかりを考えていながら、やはり心忙しく過ごしています。そんならそれで、その心忙しい程度に何か出来るかと申しますと、一向何もかもハカどらないのには、自分ながら愛想がつきます。世間の作家たちのことは、あまり知らない私のことですから、どんなものかわかりませんが、私としては、年から年中、あれも描かんならん、これもこうと考えに追い廻されていながら、その割に筆の方は一向ラチの明かないのには、歯痒くて堪りません。
唯今は、またぞろ、ある宮家に納まるべきものに筆を着けています。これも疾《と》くに完成しておるべきはずのものですが、未だに延びのびになっています。
○
作家が、年中作品の制作に没頭していると申すことは、その作家にとって仕合せのようでもあって、実は
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