苦しみでもあります。描くべきものをすっくり描き上げてしまい、これで何もかもさっぱりという爽やかな軽い気分に一どなって、さて、改めて研究なり、自分の好きな方へなり、一念を入れてみたら、こんな幸福なことはなかろうと思うのですが、仕事がゆるしてくれません。しかし物は考えようで、制作すべきものが、きれいに一段落ついてこれでオシマイとなったら、何やら心淋しく、また制作が恋しくなるのかも知れません。人の心は得手勝手、まアこんな状態で悩まされてゆくのが、すなわち人生の好方便なのでしょう。
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私は、私の好みからして、今までのような古い婦人風俗画を描いてきましたが、世間では、私があまりに古い風俗や心持に支配され過ぎているかのように、いう人もあるでしょう。私は古い方を振り返ってみることが、特に好きだというわけではありませんですが、そうすることが、表現に深みがあると思うからです。今、今のことは誰でも見て知っています。今を今のままに描くということは、画としての深みに於て、どうかと思われるような気持ちがします。
それを、今から振り返って、徳川期を眺めてみると、全く感じがちがいます。明治期で
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