方々写生をしてあるいていました。かなりノートも豊富になったらしい様子で、当人は満足しているらしいのです。

 日中でも、そう暑苦しいと感じたことがないのですから京都や大阪あたりからみると非常に涼しいに違いありません、この点は十分恵まれた土地です。もっとも僻村なのですから格別に美味《おい》しいものとか、贅沢なものとては一つもありませんが、普通一と通りの魚類は売りに来ますし、ここの海でとれとれの新鮮なものも気安く得られますので、その日その日のことには、決して不自由などは感じません。しかし美味しいものが食べたくなれば、ちょいちょい京都へ帰ってくることです。私どもも時々京都へ帰っては、また出かけました。

     ○

 鼓が浦には地蔵さんが祀《まつ》ってあります。伝説によりますと、この地蔵尊は昔ここの海中から上がったとのことで、堂に祀《まつ》ってあるそうですが、私はとうとういって見ませんでした。

 このことは謡曲の中にもありますが、むかし、なんでもこの漁村の岸に打ちよせる波の音が、鼓の音《ね》のようにきこえたので、それで鼓が浦という名がついたのだということをきいています。

 こんな伝説
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