ったのであったが、その時汽車の中へ日本人がどやどやとはいって来たが、上海の新聞に私の写真や記事を掲げていたので人々はそれをみていたらしく、汽車に乗り込むとその一行が新聞の主だなと分ったのであろう、向うから私に言葉をかけられた。この人は金子さんという中佐であったが、蘇州の庭園のいいところなどをみせてあげようという話であった。そこでその人の官舎へ来るようにとのことだったので、蘇州のしげの家《や》という日本宿に落着いてから、やがてその官舎の方へお訪ねしたわけであった。それは立派な広い大きな官舎で、晩餐の御馳走をいただいたのである。この人はとても話ずきで、それからそれへと話はつきなかった。
そこからの帰路、芝居をみたのであった。中佐はその時、私の秘書に芝居を案内させましょうと言われたので、自動車で芝居につれて行って下すった。この秘書はまた顔利きであったのか楽屋へはいって見ましょうと言うので、それをみせてもらうことになった。ごみごみした二階へあがってゆくと、それは一つの部屋でみな役者がそれぞれ持役に従った扮装をしているのであった。皇帝やチャリやいろいろの役になっている。皇帝になるのは鼻の高い、
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