感じであった。
 ごみごみとした通りをすぎると、ちょっとした富豪の家があって、中へはいると庭には太湖石が置いてあって、樹木がつくってある。それを出ると青天井の便所があったりする。散髪も戸外でやっている。それを私がスケッチしはじめると、物見高い子供や大人がよって来る。どこも同じ野次馬風景である。散髪屋も客を放りぱなしでスケッチを見にやって来るのである。客はそれでも文句ひとついうでもなく、だまって散髪屋が帰って来て再びとりかかるまでじっと待っている。
 人が沢山たかって来ると何という異臭の強いことであろうか……。
 女の人が店番をしていて御飯をたべている。大きなおはちの中には黄色いごはんが入っていて、おかずもなしにこちこちたべている。とにかく食べられたら結構というのか、そんなものも食べられない人が多いらしいのである。
 扇屋へ買物にはいったら乞食が二人ほどついて入って来た。乞食もなかなか多い。
 玄武湖に行くと、ここには柳が沢山ある。画舫があり、夏は蓮が咲いて美事であるという。その堤に柳が枝を垂れていて、そのあたりに牛が放ち飼いにされている。牛も極めて鷹揚でおとなしいものである。牛同志角突
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